前回、手術前の検査で分かったことは、

肺がんの成長スピードが異様に早い、ということだった。

当初の検査では2cmくらいの大きさだったものが、

ひと月たっただけで4cmと成長していた。

このままだと、手術を行うさらにもう1月後には6cmに、

いや、加速度的に増殖したら、もっと大きなものに

すでに、4cmという時点で転移は覚悟しないといけないサイズなのにって。

それはもう、気持ち的にはさっさとしてくれ!って錆びたい心境でしかない。

 

一番覆っているのは、親父であり、おふくろであると思う。

けど、息子たちの前で、そんな姿を見せない二人に、

なんて言ったらいいか、わからない。

で、さらに悪いことに、間質性肺炎というやっかいな症状のおかげで、

術後の抗がん剤治療ができないと。

間質性肺炎というのは原因がいまいちわからないのだが、

とにかく肺機能が低下してしまう病気で、せいぜい現状維持で

回復ができない病気だそうだ。

それが、抗がん剤を打つことの副作用というか、ショックというか、

そういったもので一気に進行する可能性がある、という話で。

微小ながら転移が始まってしまっていることが予想されるなか、

抗がん剤治療ができないのは、正直、まずいな、と思った。

 

ただ、まずいとは思いつつも、

これについては、正直いいのか悪いのか、わからなかった。

抗がん剤というのが、いろいろ種類がある中で、

ある一つの種類だと、20%くらいの人にしか聞かないうえに、

そのダメージのほうが大きく、がんにやられるというより、

薬にやられる、といっても過言ではない状況になるはなしもきいている。

 

実際に、叔父がそんな感じだった。

治療を始めるまでは、ものすごく元気だったのに、

抗がん剤の治療を始めた途端、意識不明になり、そのままだった。

そんな記憶のある自分、また、いろいろ見ていく中で、

医師の中にも抗がん剤治療は否定的であるような話もあったりで。

何が真実で、何が正解なのか。

正直、わからなかった。おそらく誰もわからない。

やったほうがいい、という信念が強いか、

やらないほうがいい、という信念が強いか、

そのどちらかでしかない。

 

で、いよいよ手術前の入院ということになった。

うちの親父は10年ほど前に心筋梗塞を患った関係で、

血液をサラッさらにする薬を飲んでいる。

その効果があると、外科手術をした際に血液が固まりにくくなり、

すぐには手術ができないそうだ。

そのせいで1週間も前に病院に入って、

その薬の効果を消しつつ、体調を整える、という作業に入る。

個人的に、病院の雰囲気は好きではない。

好きな人間はいないだろう。

あの独特の雰囲気というか。

古い病院ならなおさらだとおもう。

見舞い、というと変だが、一応病室を訪ねてみる。

兄嫁が病院勤めで、まめに顔を出してくれているのは、ほんとに助かる。

少しでも気がまぎれるのも、いいことだと思うし。

で、実際にあってみると、まぁあまり普段と変わらない。

もともとそんなに表情を変える父親でもなかったし、

普段もテレビの前から動かない人だったから、

今も病室のベッドでテレビを見ているくらいで。

病院の部屋着のせいか、

ちょっとだけ、元気がないな、という感じだった。

母親は、自分の父親の面倒や、弟や姉、私の叔父叔母にあたる人たちの

世話もしていたのでなれたもんだ。

ただ、むしろその記憶があるだけに、今の心境は、やっぱりつらいじゃないかな、

って想像してしまう。

で、今日病院に来ているのは、やはり手術を行うにあたり、

家族への了解と注意事項の説明、というものである。

両親は検査なんかで同じようなことを聞いているが、

家族全員い知らせる必要があるとのことで、

兄弟3人とも呼ばれている、という状況だ。

ちょっとして、兄二人も合流して、

親父を除いた4人でまた話を聞くことになる。

これまでととくに変わらない話で、これといって新しいことはないのだけど、

手術中に何が起こるか、起こるとしたら何があるか、

最悪どういうことになるか、などを説明された。

説明されても、はいそうですか、というしかないと思うのだけど。

医療ミスが騒がら得る昨今なんで、そういったことは

どんな些細なことでも可能性として伝えるべきなのだろうか。

1.肺の摘出はそれほどむつかし手術ではないこと

2.ただ、動脈瘤ができているので、それが非常に心配ではあること

3.動脈瘤が破裂すると、最悪の事態も考えられること

4.間質性肺炎が何かのショックで突然悪くなる可能性もあること

5.手術は絶対ではないので、何がおこるかわからないこと

6.考えられる準備はすべて行ったうえで、万全を期して行う

そんな感じの説明で、ただただ、はぁ、はぁ、はぁ、とうなずくしかない

通り一遍の説明でしかなったけど。

まぁ、しかたないといえば、しかたない。

通院は田舎の市民病院ではあるが、執刀医は帝大国立病院の先生が行ってくれる。

ただ、ちょっと若いのが気になるところではあるが、信じるしか仕方がない。

心筋梗塞後の定期健診で、2か月前に2cmの肺がんがみつかってから2か月。

ようやく切除の手術を来週に控えることになった。

なんとながい2月だったことだろう。

けど、手術をおこなっただけで治るわけではないことが、

なんとなく頭ではわかっていても、

なんとかならないかな、という希望も捨てきれないのが正直な心境で。

あとは、とにかく何もなく、無事にオペ室から戻ってきてくれることを

祈るだけだった。